金谷酒造店に関する記事が、「ツギノジダイ」に掲載されました。(2022年7月13日)

㈱金谷酒造店さんに関する記事が、「ツギノジダイ」に掲載されました。

以下に、全文を掲載いたします。

廃業寸前から売上1.5倍に 金谷酒造店8代目の「日産流改革」

創業153年の金谷酒造店で、様々な改革に取り組んでいる8代目の金谷崇史さん

 石川県白山市の株式会社金谷酒造店は、1869(明治)2年創業の酒蔵です。日本酒「高砂」などの製造・販売に加え、蔵に隣接したレストランの運営もしています。8代目にあたる金谷崇史さん(42)は、日産車体(本社・神奈川県平塚市)で自動車エンジニアとして長年働き、2018年に家業に入りました。様々な改革に取り組み、右肩下がりだった売上を、再び成長軌道に乗せつつあります。

金谷酒造店は創業153年の、まちの小さな酒蔵です。看板銘柄の「高砂」で知られ、「高砂の梅酒」は国内の品評会でも高評価を得ています。酒蔵を改造したレストラン「高砂茶寮」を運営する別会社も合わせ、従業員数は約20人です。

かつて成長の原動力になったのは、石川県内各地に設置された自動販売機での日本酒販売でした。しかし、国内の清酒出荷量がピークを迎えた1973年ごろを境に、金谷酒造店の売上も下降線をたどり始めます。未成年者の飲酒防止のため、自販機の撤去が進んだことも打撃となりました。

金谷さんの父で7代目の芳久社長(73)は状況を打開しようと、金谷酒造店の酒とともに料理を提供する「高砂茶寮」を2003年にオープン。しかし逆風は続き、2014年には売上がピーク時の約5分の1にまで落ち込みました。2015年に発売した「麴(こうじ)あまざけ」がヒットし、やや持ち直したものの、なお厳しい状況が続いていました。芳久社長は廃業を考え始めます。

「酒蔵レストラン 高砂茶寮」。酒蔵を改造し、自社の酒に合うフランス風懐石料理を出している(金谷酒造店提供)

金谷さんは3兄弟の次男として生まれました。芳久社長は金谷さんだけでなく、兄にも弟にも「継いでほしい」と言わなかったそうです。金谷さん自身、家業に関わるつもりはなく、大学進学を機に故郷を離れ、自動車関係の学科に進みました。

日産車体に就職すると、品質管理や品質保証を担当しました。ここで学んだことが、のちに金谷酒造店を改革する際の礎になっているといいます。

「その頃の日産は、カルロス・ゴーン最高経営責任者(CEO、当時)による日産リバイバルプランの真っ最中でした。倒産寸前からV字回復する過程で何に取り組んだのか、内部で見ることができました」

一例はコストカットです。ゴーン氏は部品の調達から電気代まで、あらゆるものをふるいにかけ、適正価格かどうか厳しく判断しました。

品質保証の仕事を通じても多くの学びがあった、と金谷さんは話します。

「車では、1つの部品で不良品が見つかれば、全ての車から取り外さなければなりません。たった1円の部品でも、何百万円分のコスト増につながります。品質とコストの間には相関関係があり、品質を上げればコストが下がります。それを肌で感じることができたのは、とても良い経験でした」

日産車体時代の金谷さん(金谷酒造店提供)

2017年のある日、金谷さんの妻が「ご両親の老後は誰が面倒を見るの」と相談してきました。

金谷さんの兄は東京で働き、弟は金谷酒造店の海外販路拡大のためカナダに駐在していました。兄に相談すると「老人ホームに入ってもらうか、首都圏に来てもらおう」と言います。

金谷さんは妻と相談し、白山市に帰ることにしました。3兄弟のうち誰かが、親の最期を地元で見守ってあげるべきだと考えたからです。

「高砂の梅酒」は2018年の全国梅酒品評会で銀賞を受賞した。審査はブランド名やメーカー名を伏せた状態で実施する

地元に帰るとはいえ、どんな仕事をするかは自由です。金谷酒造店を継いでほしいと、両親から頼まれたこともありません。ただ、金谷さんの中で、ある気持ちが芽生え始めていました。

「家業も日産のように立て直せるんじゃないか、と思ったんです。サラリーマンを続ける中で、起業したい思いが強まり、経営についての勉強も始めていました。どうせこのままつぶれるなら、『ダメ元』でやってみようと」

2018年10月、金谷さんは金谷酒造店に入社しました。すると、かつて高い価格で契約し、そのまま続いている取引がいくつもあることに気づきます。

そこで取り組んだのが、仕入れの見直しです。全ての支出について、どこからいくらで買っているのか、それはなぜなのか、を点検したのです。見直しにあたり重視したのは「理由」だといいます。

「安さだけで選んで、品質が落ちては本末転倒です。ただし、『なんとなく』は理由になりません。より良い仕入れ先があるなら変更すべきです」

金谷さんは米や麴などの原料、瓶、段ボール、包装資材、ガス代など、全ての経費を見直しました。社内からの反発を想定し、誰も巻き込まずに1人で始めました。段ボールなど、酒の品質に影響のないものについては、反発なく変更することができました。

見直しにより支出が減った半面、問題も出てきました。コストカットに取り組むのが金谷さんだけで、会社に風土として根付かない点です。そこで経理部門を中心に関わってもらうようにしました。「よりよい仕入れ先を見つける喜び」を知ってもらうことで、徐々に会社全体に意識が浸透したといいます。

難しかったのは、数字で測れないものです。例えば、手作業でお酒を瓶に詰める時の器具など、職人が「昔から使っているから」と話すものをどう変えるか――。

「職人さんに対しては、教えてもらう姿勢でいきました。『昔からそうだから』と言われれば、『こっちを使ったらどうなるでしょうか?』と教えを請い、一緒に考えてもらう。すると自発的に変えてくれることもありました。年配の職人さんの考え方を変えるのは簡単ではないですが、会社の風土を少しずつ変えていければと思います」

蔵で酒の仕込みをする職人(金谷酒造店提供)

一連の支出見直しでは、失敗もありました。安い機材を導入したら、使い物にならなかったことが何度かあったそうです。

「でも、失敗はどんどんすべきだと思うんです。1000万円の機材の代替品として使える100万円の機材を見つけることは十分可能です。最終的に安い代替品にたどり着ければ、試してみた100万円の機材が何個かダメでも、トータルでは安く上がります。失敗した経験はその後に生きますし」

経費節減のため、安い機器を組み合わせ、必要な機材を自作したこともあります。例えば、酒造りに欠かせない温度管理の装置です。一定の温度に達したら冷やす工程は、それまで手作業でした。これを自動化すれば、人件費を抑えたり、担当者に他の仕事を頼んだりできます。

しかし、こうした装置は500万円前後と高価です。そこで金谷さんはネットで情報収集。熱帯魚を飼育する際の温度計とポンプを組み合わせれば、簡易な装置を作れると気づきました。

「見た目は悪いですが、ほぼ同じ機能でコストを大幅に抑えられました。日産車体時代にも、汎用品を組み合わせてコストを下げた経験があります。失敗してもいいから試してみるのが大事ですね」

金谷さんが入社する前の2015年に発売し、業績がやや持ち直すきっかけになった「麹あまざけ」。すっきりしたやさしい甘さが特徴で、子どもや女性に人気という(金谷酒造店提供)

支出を見直した後は、収入を伸ばす必要があります。金谷さんは次に、新商品の開発に取り組みました。

「車づくりでも、やみくもにアンケートを取るのではなく、ターゲットを定めて話を聞くようにしていました。例えばキャンプ好きな家族をターゲットにした車なら、キャンプ場で話を聞くんです」

金谷酒造店の強みの1つは、酒蔵の横でレストランを運営していること。顧客の声をすぐに聞けます。新しく開発する酒のターゲットを「20~30代の女性で、お酒は少し飲む程度。甘すぎる食べ物は苦手だが、ほどよい甘さはほしい人」と決め、聞き取りを通じて開発のヒントをもらいました。

こうして2020年12月に発売したのが、「金乃澤 梅酒 金沢金箔入り」です。「お土産用に金沢の名産品である金箔を入れてほしい。定番商品の『高砂の梅酒』と変わらないおいしさで、安く買えるものを」。そんな要望に応えました。大ヒットし、現在も注文に生産が追いつかない状態が続いています。

「金乃澤 梅酒 金沢金箔入り」は中国でも大ヒットしましたが、中国側の法改正で、金箔入りのお酒を販売できなくなりました。そんな時、中国では働く女性を中心に果実酒が人気であること、仕事の後にストレートで飲める梅酒を作れば売れるのでは、という話を中国人バイヤーから聞きます。

こうして2021年12月、中国の働く女性をターゲットにした「高砂 PM5:26」を発売。中国から販売が始まるという、日本酒業界では異例の商品となりました。

左が「金乃澤 梅酒 金沢金箔入り」(300ml、税込み860円)、右が「高砂 PM5:26」(500ml、税込み1320円)

商品の見せ方も工夫しました。「金乃澤 梅酒 金沢金箔入り」は見た目の華やかさが売りですが、置いておくと金箔は沈んでしまいます。そこで、金箔が沈まずに漂っているように見える、展示用のお酒を開発しました。仕組みは企業秘密です。

「お店に聞くと、展示用に商品を作っているのはうちだけだそうです。開発には苦労しましたが、お客様に選んでいただきやすくなる方法があるなら、やるべきだと思います」

いずれも金箔入りの酒。展示用(左)では金箔が漂い続ける一方、販売用(右)では沈んでいる

販路拡大にも注力しています。金谷酒造店では、2012年からカナダへの本格展開を始め、近年は売上の3%を占めています。この海外販路をアジア圏にも広げたいと考えました。

当初は、国際便の機内販売でお酒を扱ってもらう計画を立てました。しかし、コロナ禍で欠航や減便が相次ぎ、白紙に戻りました。同時に、売上の多くを占める国内飲食店向けの販売がほとんど止まり、ピンチが訪れたのです。

そこで石川県内の若手後継ぎグループから知恵を借り、2021年5月に始めたのがライブコマースです。販売者がリアルタイムでウェブ上の消費者とつながり、実演したり質問に答えたりして、その場で商品を売る仕組みです。

「ライブコマースは日本ではあまり普及していませんが、中国ではとても人気です。中国の人気配信者と提携して実施したところ、多くの注文をいただきました」

こうした中国向けの商品開発や販促活動の結果、2021年度は中国だけで約2000万円の売上を達成。コロナ禍にも関わらず、中国での販売実績は過去最高を記録しました。

ライブコマース中、リアルタイムで客とやりとりする金谷さん(左、金谷酒造店提供)

異業種から家業に入り、もうすぐ4年。試行錯誤を重ねながら、売上を約1.5倍に伸ばしました。ただ、金谷さんは売上を追いかけるつもりはないそうです。

「酒造業界はブラックなイメージが強く、金谷酒造店も3兄弟で奪い合うような会社ではありませんでした。それを変えていくのが目標です。私の子どもの世代が『継ぎたい』と思えるような、働きやすくて魅力ある会社にしたいです」

社内の肩書にこだわりはなく、代替わりの時期は未定だといいます。これからも芳久社長を支えながら、金谷酒造店の再興に取り組むつもりです。

「経営とは『お客様はなぜお金を出してくれるのか』を考え続けることだと思います。お客様の考えを深掘りし、どうすれば満足していただけるか、これからも追求します」

 

以上、「ツギノジダイ」から全文を引用しました。

 

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